第 4 回 回路の接続と特性(2)

本日の内容


4-1. 宿題の解答

宿題

次の FET による増幅回路の周波数特性を求め、グラフを書きなさい。 但し、相互コンダクタンスは gm で表し、 ドレイン抵抗は∞とします。

ヒント

等価回路は次のようになります。

解答

まず、等価回路から V'1 を求めます。左辺の合成インピー ダンスを Zとおきます。


Z = frac{1}{j omega C} + frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}

I = frac{V_1}{Z}

V quote_1 = frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2} I = frac {  frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2} }{frac{1}{j omega C} + frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}}V_1

右側の等価回路で RL を流れる電流 I2 を考えます。


I_2 = frac{R_D}{R_D + R_L} g_m V quote_1

V_2 = R_L I_2

~= frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {  frac{R_1 R_2}{R_1
+ R_2} }{frac{1}{j omega C} + frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}}V_1

~= frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1+frac{R_1 + R_2}{j omega C R_1
R_2} } V_1

A_v = frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1+frac{R_1 + R_2}{j omega
C R_1 R_2} }

ここで (R1+R2) / (ω CR1R2) と 1 の大小関係、つまり (R1+R2)) /( CR1R2) と ω の大小関係を考えます。

ω≪ (R1+R2)) /( CR1R2) の場合
分母はほぼ (R1+R2)) /(j CR1R2) になるので、電圧利得は次の通り

A_v = frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1+frac{R_1 + R_2}{j omega
C R_1 R_2} }

~simeq frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{frac{R_1 + R_2}{j omega C
R_1 R_2} }

~= frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {j omega C R_1 R_2}{R_1 + R_2}
ω≫ (R1+R2)) /( CR1R2) の場合
分母はほぼ 1 になるので、電圧利得は次の通り

A_v = frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1+frac{R_1 + R_2}{j omega
C R_1 R_2} }

~ simeq frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1}

~ = frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m

よって周波数特性は ωR1R2/( C (R1+R2)) より小さい場合は ωに比例し、大きい場合は一定になる。

4-2. コンデンサを含む回路

次の回路の電圧利得の周波数特性を考えましょう。

コンデンサと抵抗が平行につながった回路

そのため、まずこれを簡略化した回路の特性を求めます。

もっとも簡略化した回路

なにもない回路

この場合、V2=V1より Av=1

コンデンサだけを取り去った回路

コンデンサと抵抗が平行につながった回路

この場合、電圧が RL:R に分 割されるので Av=RL/( R+RL) となります。

目標の回路の特性

目標の回路の特性を求めましょう。 合成インピーダンスをZ とします。


Z = R_L + frac{R  frac{1}{j omega C}}{R + frac{1}{j omega C}}

I = frac{1}{R_L + frac{R  frac{1}{j omega C}}{R + frac{1}{j omega
C}}}V_1

~ = frac{j omega C R + 1}{R + R_L + j omega C R R_L} V_1

V_2 = R_L frac{j omega C R + 1}{R + R_L + j omega C R R_L} V_1

A_v =  frac{j omega C R R_L + R_L}{R + R_L + j omega C R R_L}

~ =  frac{frac{R_L}{j omega C R R_L} + 1}{frac{R + R_L}{ j omega C R R_L}+1}
ここで、 RL/ (ωCRRL) 、 (RL+R)/ (ωCRRL) と 1 の大小関係を比較します。 ωとの関係を考えると RL/ (CRRL) と、 (RL+R)/ (CRRL) との関係になります。 RL/ (CRRL) < (RL+R)/ (CRRL) から、場合分けは次のようになります。

ωRL/ (CRRL) の時
分子、分母とも 1 はほぼ無視して良いので、電圧利得は次のようになります。

A_v =frac{frac{R_L}{j omega C R R_L} + 1}{frac{R + R_L}{ j omega C R R_L}+1}

~ simeq frac{frac{R_L}{j omega C R R_L} }{frac{R + R_L}{ j omega C R R_L}}

~ = frac{R_L }{R + R_L}

つまり、コンデンサだけを取り去った場合の利得と同じになります。

ω ≫ (RL+R)/ (CRRL) の時
分子、分母とも分数部分は 1 と比較してほぼ無視して良いほど小さいので、 電圧利得は次のようになります。

A_v =frac{frac{R_L}{j omega C R R_L} + 1}{frac{R + R_L}{ j omega C R R_L}+1}

~ simeq frac{1 }{1}

つまり、R, Cともない場合、これはコンデンサを短絡 したことと同じ利得になります。

結局、周波数が小さい時はコンデンサが無い状態、周波数が大きい場合はコン デンサを短絡した場合に相当することがわかります。 RL/ (CRRL) < ω < (RL+R)/ (CRRL) の場合は、少し調べると単調増加であることがわかります。 従ってグラフは次のようになります。

グラフの作成

gnuplot を用いて電圧利得の周波数特性を調べます。


A_v =  frac{j omega C R R_L + R_L}{R + R_L + j omega C R R_L}

簡単のために a=1/RC, b= (RL+R)/ RRLC と置くと次のようになります。


A_v =  frac{a + j omega  }{b +  j omega  }

ここで、 a<b より a=1, b=2 など適当に値を定めます。 すると、 gnuplot にグラフを描かせる関数は (1+ jx)/(2+ jx)の絶対値になります。 gnuplot では虚数単位 j を {0,1} という形で表しますので与えるコ マンドと得られるグラフは次の通りになります。

set logscale xy
plot [10**(-3):10**3] abs((1+{0,1}*x)/(2+{0,1}*x)

4-3. 電子回路の復習(2)

増幅回路の安定

トランジスタ増幅回路はつぎのような原因で不安定になります。

  1. 電源の不安定
  2. トランジスタの特性の変動(温度、製品差)

このような原因を取り除くため、負帰還という手法を用います。詳しくは 4 章 pp.152-153 で取り上げます。

FET回路での例

次の回路で電圧利得を調べましょう。

負帰還抵抗のあるソース接地回路

簡単な回路

比較を行うため、次の簡単な回路の解析から始めましょう。

単なるソース接地回路

この回路の等価回路は次のようになります。

単なるソース接地回路の等価回路

まず、VV1は等しいです。 次に、V2は、 RL を流れ る電流とRLの積です。 そして、その電流は gmVRD:RL の逆比で分配したものになります。 従って、 V2, Av は次のようになります。


V_2 = frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m V_1

A_v = frac{R_D R_L}{R_D + R_L} g_m

帰還抵抗のある回路の解析

さて、目標の回路の解析をしましょう。 等価回路はつぎのようになります。

負帰還抵抗のある回路の等価回路

注意したいのは、 FET のゲートからソースには電流は流れませんが、 V1 とソースの間にある RE には電流が流れるため、電位差が発生 することです。 従って、ゲート・ソース電圧 V は次の式で与えられます。


V_1 = V + g_m V R_E

V = frac {1}{ 1 + g_m R_E }V_1

この電圧でドレイン・ソース間を流れる電流が決定するので、あとは同様に V2, Av を求める と次のようになります。


V_2 = frac {R_D R_L}{R_D + R_L} g_m V

~ = frac {R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1 + g_m R_E} V_1

A_v = frac {R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1 + g_m R_E}

このことから次のことが言えます。

  1. RE により増幅率が 1/(1+gmRE) になります。 RE ≪ 1/gm の時は増幅率はほぼ 1 ですが、 RE ≫ 1/gm の時の増幅率はほぼ 1/gmRE となり、 RE に反比例します。
  2. gm がばらついても利得が抑えられます。 gm≪1/RE の時は分母がほぼ 1 になるので電圧利得は帰還抵抗がない時と同様に gm に比例しますが、 gm≫1/RE の時(つまり gmRE ≫1の時) は次のようになります。
    
A_v = frac {R_D R_L}{R_D + R_L} g_m frac {1}{1 + g_m R_E}
    
~  simeq frac {R_D R_L}{R_D + R_L}  frac {g_m}{ g_m R_E}
    
~  = frac {R_D R_L}{R_D + R_L}  frac {1}{R_E}

    つまり相互コンダクタンスが大きくても、電圧利得は RE で定まる一定の値に落ち着いてしまう ということです。

このように帰還抵抗が入ることにより、電圧利得は落ち、さらに相互コンダクタンスの 値と無関係な値に定まることがわかります。

そこで、このような帰還が直流的な変動を抑えるように効き、交流信号には効か ないようにできれば、先に述べた変動に対して強い増幅回路ができます。 それを実現したのが次の回路です。

この回路は、周波数が低い信号に対しては、帰還抵抗 RL があるように働き、周波数が高い信号 に対しては帰還抵抗がないように働きます。 つまり低い周波数では一定の低い増幅率に、ある程度高い周波数では相互コン ダクタンスで決まる本来の増幅率で増幅されることになります。

4-4. 宿題

問題

  1. 次の回路の電圧利得を求めよ。但し、トランジスタのモデルは h パラメータを使用し、 h1 2=0, h2 2=∞ と近似しなさい。
  2. 求めた電圧利得が、次の値の変化によりどのように変化するかグラフによ り図示しなさい。
    1. RE
    2. h2 1

ヒント1

この回路の等価回路はつぎのようになります。

ヒント2

RE に流れる電流は (1+h2 1)IB になるので、V1IB の関係は次のようになります。


V_1 = h_{1 1}I_B+( 1 + h_{2 1})I_B R_E

I_B = frac{1}{h_{1 1}+(1 + h_{2 1})R_E}V_1

坂本直志 <sakamoto@c.dendai.ac.jp>
東京電機大学工学部情報通信工学科